皆さんは「ラウレス硫酸アンモニウム」をご存知でしょうか。
ラウレス硫酸アンモニウムはシャンプーの典型的な界面活性剤(洗浄成分)の一つで、身近なシャンプーに幅広く配合されています。
ただ、ネット上では「ラウレス硫酸と名の付く成分は危険で、毒性がある」という趣旨の記事もよく見かけると思います。
実際のところどうなのでしょうか。
本記事では「ラウレス硫酸アンモニウム」について、その安全性をメインに解説していきます。
皆さんのシャンプー選びの参考になるような情報を提供しますので、ぜひ最後までご覧ください。
界面活性剤の役割
それでは、「ラウレス硫酸アンモニウム」の詳しい説明に入る前に、洗浄成分である界面活性剤とはそもそもどのような成分なのか、またどのようなしくみで汚れを落としてくれるのかについて、簡単に解説します。
浮かせてはじく
界面活性剤は、流水では簡単に落ちない余分な皮脂や剥がれた細かな角質を落としてくれます。
界面活性剤の分子には水になじみやすい部分と油になじみやすい部分が存在するため、水と油の間を取り持ってくれ、油分を囲んで水に「浮かせる」ことができます。
食器用洗剤などが油汚れを落とすことができるのも同様の原理です。(水と油など異なる液体の「境界面」で、機能を発揮し「活性化する」という意味で「界面活性剤」といいます。)
それに加えて、界面活性剤には「泡立つ」という特性があります。
シャボン玉を想像していただけるとわかりやすいですが、泡は弾けますよね。
界面活性剤が泡立つと、その泡の弾ける力で水では流れないような微細な汚れもはじき出すことができます。
・汚れを「浮かせる」
・泡立つことで汚れを「はじく」
界面活性剤のポイント
以上より、「浮かせてはじく」という役割を持つ界面活性剤のポイントとなる主な性質は
・水によく溶けること
・よく泡立つこと
であるということがわかると思います。
しかしながら、界面活性剤の洗浄力は強ければいいというものではありません。
洗浄力が強すぎると皮膚や毛髪を刺激してダメージを与えてしまうことになります。
一般的に、安価に入手可能な界面活性剤は洗浄力が少し強く、皮膚や毛髪を刺激してしまうことが少なくありません。
洗いすぎるのも考え物なのです。
「十分な洗浄能力」と「低刺激性」の二つを併せ持った界面活性剤が理想の界面活性剤と言えるでしょう。
ラウレス硫酸アンモニウムは危険なのか?
それではいよいよ本題であるラウレス硫酸アンモニウムについて考えていきます。
ラウレス硫酸アンモニウムは、本当に危険なのでしょうか?
何が”危険”なのか?
実際のところラウレス硫酸アンモニウムの何が危険なのでしょうか。
ネットには色々なことが書かれています。
“洗浄力が過度に強い”
“毛根にトラブルを起こす”
“頭皮から身体に浸透する”
危険性を強調するこのような言葉が散見されますが、結論から申し上げれば、ラウレス硫酸アンモニウムは危険成分ではありません。
市販されているシャンプーはどれも国の基準を満たした安全なシャンプーですし、当然そこに配合されているラウレス硫酸アンモニウムも安全な成分です。
ラウレス硫酸アンモニウムの特徴
先述のように、「十分な洗浄能力」と「低刺激性」を併せ持ったシャンプーが理想なのですが、洗浄能力が高ければ高いほど刺激も強くなってしまうというのが現実です。
ラウレス硫酸アンモニウムも多分に漏れず、「洗浄能力は優秀だが刺激も少し強い」という特徴が研究によって明らかになっています。
そのため、皮膚の弱い方や乾燥肌の方には適さないかもしれません。
少しでもかゆみなどの異変を感じたらアミノ酸系シャンプーなど、別の界面活性剤を配合したシャンプーに変えてみることをおススメします。
毒性はあるのか?
皆さんは「経皮毒」という言葉を目にしたことはありますか?
経皮毒とは、日常使われる製品を通じて皮膚から有害性のある化学物質が吸収されることを言います。
「ラウレス硫酸アンモニウムには経皮毒がある」なんて書かれている記事もネット上には散見されますが、まったくの間違いです。
そもそも化粧品には、動物やヒトに対する厳密な試験の結果「安全」と認められた成分しか配合されていません。
またラウレス硫酸アンモニウムは非常に水によく溶ける物質で、その上皮膚には皮脂や「バリア機能」という有害物質から身を守る機能が備わっています。
ですから、シャンプーにおいて通常の使い方をしていればまず皮膚に浸透するなどという事態にはなりません。
ただ、「長時間皮膚に塗布したまま放置すると安全上の問題を生じる」との報告はされています。
皮膚へのダメージやごく稀にはアレルギー反応も生じることがあるので、シャンプー時はしっかりと洗い流すことが大切です。
危険成分とは言い切れない!
以上のように、ラウレス硫酸アンモニウムはネット上に書かれているほど悪い成分ではありません。
しかしながら洗浄能力が高いため注意が必要な場合もあるでしょう。
もう少し詳しく
ラウレス硫酸アンモニウムは危険成分とは言えないということがわかったので、ここではもう少しこのラウレス硫酸アンモニウムについて掘り下げてみましょう。
ラウレス硫酸アンモニウムを配合している商品は?
ラウレス硫酸アンモニウムを実際に配合している商品は幅広く、代表例としては
P&Gの「PANTANE」シリーズ
花王の「ESSENTIAL」シリーズ
花王の「メリット ピュアン」シリーズ
といったものがあります。
安価で製造できて洗浄能力が強いため大手メーカーの商品に多く配合されている印象です。
ラウレス硫酸アンモニウムが配合されていない商品
THE SILK スカルプシャンプー リペア 250ml 990円(税込)
b.ris オーガニック炭酸シャンプー 200g 1,980円(税込)
haru kurokami シャンプー 400g 3,256円(税込)
以上が具体的なラウレス硫酸アンモニウムが配合されていないシャンプーです。
頭皮や髪にも優しいものが多いですので、ぜひお試しくださいね。
どんな人におススメ?
先述のようにラウレス硫酸アンモニウムは洗浄能力が高く刺激が強いため、皮膚が弱い方や毛髪が傷みやすい方にはおススメできません。
反対に、一般的に頭皮がべたつきやすい人にはおススメということが言えます。
しかしながらこれは一般的な話で、シャンプーにはラウレス硫酸アンモニウム以外にも様々な成分が含まれていますし、どのシャンプーが合うかは人それぞれです。
繰り返しになりますが、かゆみなどの異変を感じた場合は、より刺激の弱い別の界面活性剤を配合しているシャンプーに変えてみることをおススメします。
シャンプーを界面活性剤で選ぶ方法について詳しくはこちら
「ラウレス硫酸Na」と異なる点は?
ラウレス硫酸アンモニウムに似た成分として「ラウレス硫酸Na」というものがあります。
こちらの方が色々な商品に幅広く配合されていて、知っている方も多いと思います。
ラウレス硫酸Naはラウレス硫酸アンモニウムより洗浄能力が高く、またその分皮膚や毛髪に対する刺激も強い成分になっています。
そのため近年では、洗浄能力が劣るけれども、刺激が弱いという点が評価されてラウレス硫酸アンモニウムの使用が増えています。
ちなみに分子の構造としてはどちらも本体の構造はほとんど同じで、一番端にアンモニアイオンがついているかナトリウムイオンがついているかという違いがあります。
ラウレス硫酸ナトリウムの詳しい解説や配合されている商品などはこちらの記事で紹介していますので、合わせてご覧ください。
「ラウリル硫酸」という名の成分たち
「ラウレス硫酸」ではなく「ラウリル硫酸」と名の付く成分たちも存在します。
「ラウリル硫酸Na」や「ラウリル硫酸アンモニウム」がその例です。
こちらも「ラウレス硫酸」と名の付く成分と並んでよく「危険だ」と言われている成分たちです。
「ラウリル硫酸」と「ラウレス硫酸」、その名前もさることながら、構造もよく似ているのです。
しかし、「ラウリル」と名の付く成分たちは、刺激が強い「ラウレス」よりもさらに刺激が強い成分のため、現在販売されている商品にはほとんど配合されていません。
つまり、販売されているほぼ全てのシャンプーがラウリル硫酸が入っていないシャンプーです。
ただ、稀に微量だけ配合されている商品も見られるので、シャンプーを購入する際はしっかり成分表示を読んでから購入するのが良いでしょう。
まとめ
ラウレス硫酸アンモニウムについての説明は以上となります。
ラウレス硫酸アンモニウムは危険成分とまでは言えないものの、刺激が少し強く、皮膚や毛髪の特徴によっては合わないというかたも多いかもしれません。
合わないという場合は刺激の弱いアミノ酸系などのシャンプーを試すと良いでしょう。
本記事が皆さんのシャンプー選びの参考になれば幸いです。
また、こちらの記事ではシャンプーの洗浄成分である界面活性剤について詳しく解説しています。合わせてご覧くださいね。
参考文献一覧
- 日本石鹸洗剤工業会 (2011):ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩 (AES)のヒト健康影響と環境影響に関する リスク
- 公益社団法人 日本化学会 (1997):『化学と教育』より シャンプーの化学
- 厚生労働省:化粧品・医薬部外品等ホームページ
- Cosmetic Ingredient Review (1983):Final Report on the Safety Assessment of Sodium Laureth Sulfate and Ammonium Laureth Sulfate, JOURNAL OF THE AMERICAN COLLEGE OF TOXICOLOGY, Volume 2, Number 5